『架空OL日記』(2020) 64、65、66日目「偽物を偽物として楽しむ」
こんばんは、カシコです。
今回は『架空OL日記』(2020)を見てきたので、
そちらの感想をまとめていきたいと思います。
珍しくネタバレもあまりないので、ゆるりと読んでもらえればと思います。
※画像はドラマ版です。映画公式サイトのURLはこちら↓
<登場人物>
私:主人公。バカリズムが演じる。銀行一般職のOL。
真紀:私の親友。ノリがいい。同期のOL。
智子:自分の意見をしっかり持つ、かっこいい先輩のOL。
紗英:天然。でもいい子。後輩OL。
法子:仕事できる。このメンツで最年長の頼れるOL。
<簡単な物語>
「私」は銀行で働くOL。月曜日の朝の寒さに文句を言いながらも、今日も同期と出社する。いつもの仲間が集まる更衣室で、就業前と就業後にいつものメンツで話すのが、日々の大きな部分を占める。たまにデパートに行ったり、イタリアンを開拓したり、ゴロゴロしたり…そんなとりとめもない、でもなんかいい、そんな日々が今日も始まる。
<この作品は映画じゃない、コントです>
この映画は、映画のフリしたコントです(笑)
そもそも僕は、この作品の原作である小説や、ドラマ版はみていません。
バカリズムさんも好きですが、めっちゃファンとかでもないです。
主にバラエティ番組出てる姿を見てるような、感じです。
そんな僕でも、始まって数秒でわかりました。
この映画はコントです。
なので、いつものような映画感想にはなりそうもないのです。
感想まとめるのも野暮だなぁとも思ったのですが、
自分の映画を見た備忘録も兼ねてるので、一応書いておこうと思います。
ただ、映画の面白さを語るというよりも、
このコントの何がおもしろかったのか、
という散々語られ尽くされたであろう内容を改めて僕が話すだけになります(笑)
<バカリズムの演技力=すごい偽物>
まず圧倒的なのが、バカリズムさんの演技力です。
そもそも演技的なコントが彼のおもしろさだと僕は思っています。
ほんとーにしょうもないことを、
しょうもなくないんだ!まじめに考えろよ!と、
とてつもなく真正面から突きつけてくるコントが結構多いと思います。
ゴッドタンのAVへの熱い思いを綴ったマジ歌なんかはまさにそうじゃないですかね(笑)
この映画では、OLの生活がその対象なわけです。
OLの生活がしょうもないってことではなく、
人の日常ってわざわざ気にとめないし、見ないですよね?
あの人、こんな仕草するんだー、とか、
あ、スポンジの水切らないのか…!なんてのを、
会う人全員分なんか、まぁ考えないじゃないですか。
さらに自分の仕草なんてもっと考えないですよね。
無意識にやってることですし。
でもそれをバカリズムさんは、徹底的に捉えきって演じるのです。
OLたちですら、しょうもないと感じるであろう部分を、
徹底的に演じ切るのです。
例えば、足の使い方。
扉閉めるときに、足が出ることありますよね。
雑に閉めちゃうみたいな。
それをわざわざカメラの前でやるんですよ。
そんな細かいレベルの演技をひたすら続けていきます。
ですが、別にこの演技でバカリズムさんが役者として素晴らしいかというと、
別にそうでもないと僕は思います。
演者としてうまいというよりかは、
やっぱり演技なんです。どこまでも演技。
つまりは演じているもの。
本物の動作ではないなと思います。
当たり前です。
だってバカリズムさんOLじゃないですから(笑)
でもそれを見、演技が、その所作が完成されているのです。
その結果、観客全員が、
偽物だとわかったうえでその偽物のクオリティを鑑賞する状態になります。
この偽物よくできてるなぁ…という感覚を全編通して持たされるわけです。
それはそんな演技を、プラン的な部分と、
アドリブ的な部分でやり抜くことができるポテンシャルを彼が持っているからです。
後にも話しますが、この映画では結構アドリブチックな演出が多いです。
ですがその中でもバカリズムさんの偽物は徹底しています。
彼が演じるOLは途切れることはありません。
それは、彼が思うOL像の独特の間やセリフが完成されている上に、
それを表現できる彼の演技力がうまくかみ合っているからです。
それはナレーションによる、心情描写までもしっかりと活用したものになっています。
ちょっとごちゃつきましたが、まとめると、
彼が考えたOL像を、
彼自身が完璧な偽物として再現しきっている様を、
観客は偽物として楽しむ、
ということになると思います。
表現する側も受け取る側も、互いに偽物だって自覚しながら楽しむという、
謎の構図が出来上がるわけです(笑)
<偽物を偽物たらしめるキャラクター達>
周りの演技力もこの偽物の世界観をうまく演出してくれます。
先ほども述べたような、アドリブチックな演技がどの役者さんも非常にうまいです。
ノリでわちゃわちゃと盛り上がっていく感じが、
見ていて楽しくさせてくれます。
それぞれのキャラクターの色もちゃんと出ていて、
同期の真紀との意気投合する感じや、後輩の紗英のちょっと天然なところ、
しっかりとしている智子の頼もしい感じや、
最年長である法子の落ち着きながらもノリの良い感じなど、
それぞれの味を出しながらも、しっかりと一つのグループが完成されています。
この個性の割り振られた感じが、それぞれいそうなんだけど、
こんなにうまくかみ合うかというぐらいにかみ合うことで、
妙だけど心地の良いフィクション感を提供してくれていました。
<OLという題材>
そもそも、このOLという題材は、バカリズムさんにとってとても相性がいいと、
個人的には思っています。
それは、(この映画における)OLがそもそもコントを繰り広げているからです。
例えば、上司の旅行のお土産に何が欲しいかと言われ、
国内旅行がいい、というスタートから、
様々な旅行自慢やあこがれの場所を語り始めます。
もちろん旅行のお土産が旅行なんてことはありえないのですが、
そんなのはわかったうえで話を楽しんでいるのです。
この構図ってどこかで見覚えがありませんか?
そう、バカリズムさんの芸風です。
冷静に考えたらしょうもないことを真正面から真剣に向き合って、
話し合うわけです。
これを映画内のセリフで
「私たちは、真実じゃなくて、矛先を求めてる」
と言い表しています。
話題がじっさいにありうるかとか、本当かなんてのはどうでもいい、
その話の盛り上がる対象であれば、
みんなが向かう先端=矛先があればそれでいいのだと割り切っているのです。
バカリズムさんのコントも、しょうもない目標に向かって、
全力で観客を説得し、論破し、足並みをそろえさせるという点で、
似たような構図を持っています。
そりゃどう考えてもバカリズムさんとOLの相性は良くなるに決まってるよな、
って感じでした(笑)
<一応映画として>
今作は映画版ということで、一応映画的な部分も感想を述べていきたいと思います。
まずカメラワークですが、全体的に固定ショットが多かったです。
カメラが動くことが少なく、
一定の位置からのショットを繋げていたという感じですね。
これによって、さっきも言ったアドリブチックな演技や会話劇が、
じっくりと見られるようになっていました。
役者側の演技を優先したような演出だったともいえると思います。
またそんな役者たちの演技を邪魔しないように、
セットは徹底して作られていました。
この場合の徹底とは、とてもシンプルということです。
邪魔な演出がされるものが一切なく、あくまで演技が主役で、
セットはわき役だという感じでしたね。
ただ、銀行の色合いを青系統で統一したりなどの、
シンプルながらもデザインはしっかりされていたというものでした。
色合いでいうと、映画全体を通して、光やホワイトが強めです。
パステルカラーっぽいというんですかね。
この色合いはバカリズムさんが考えるOL=女性的な部分
(この場合の女性的というの皮肉っぽい部分もあるかもしれません)
を強調するために活用されていました。
それは映画の最後のシーンの演出で
この映画の『架空』という側面を強調する際に用いられていました。
ただ、個人的にあんまり重要ではないかなとも感じたので、
全体的に柔らかい雰囲気を作り上げるのに貢献していたかなという感じでした。
こんな感じで、映画だから特別なにかすごいことがあるというわけではなかったかな、
という個人的な感想を抱きました。
<最後に>
全体を通して、僕は終始笑っていました。
バカリズムさんの考える世界を大人たちが全力で作り上げているなんていう、
こんな壮大なコントは他にありませんもん(笑)
なにも難しいことを考えることなく、ただひたすらに笑って笑顔になれました。
多分この笑いのクオリティって、ドラマ版でも変わらないと思うので、
時間があるときにそちらもぜひチェックしたいと思います。
改めて、バカリズムさんの才能というか、観察眼のすごさには驚かされましたね。
僕は男性なのでOLの方の普段の行動はあまりわからないのですが、
あるある~、と思いながら見ている人も多かったのではないでしょうか。
お笑いとして見ても、あるあるとしてみても楽しめる、
いろんな面白さが詰まった作品でした。
これは家で大勢で笑いながら見てもいいかもしれません。
みんなで真実よりも矛先を見つけて、笑いあっちゃいましょう。
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