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映画『ジョジョ・ラビット』を僕が好きな5つの理由

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映画『ジョジョ・ラビット』(2019)を見たので、この映画のどんな部分がよかったのかを5つの理由に分けて、まとめていこうと思う。この記事は、若干ネタバレありとなっているので、気になる方は本編をご覧になってから読むのをお勧めします。
この映画、ここ数ヶ月で一番よかった。

物語をざっくり

第二次世界大戦下のドイツ。10歳の少年ジョジョは、空想上の友達であるアドルフ・ヒトラーの助けを借りて、立派な兵士になろうと奮闘していた。しかし、心優しい彼は訓練でウサギを殺すことができず、“ジョジョ・ラビット”という不名誉なあだ名をつけられてしまう。そんな中、ジョジョは母親と2人で暮らす家の隠し部屋に、ユダヤ人少女エルサが匿われていることに気づく。やがて、ジョジョは皮肉屋のアドルフの目を気にしながらも、強く勇敢なエルサに惹かれていく——。
『ジョジョ・ラビット』公式HPより引用


主な登場人物

ジョジョ:本作の主人公である10歳の男の子。好きなものは、ナチスと鉤十字。前線に出て、ドイツに貢献したいと思っている。
ロージージョジョの母。父がいない中で、ジョジョの面倒をみるだけでなく、周りに意見をしっかりと述べられる人物。オシャレ。
エルサ:ジョジョの家に隠れて住んでいるユダヤ人の少女。からかい上手。
ヨーキー:ジョジョの親友、ジョジョ曰く2番目の親友らしい。めっちゃいいやつ。
クレンツェンドルフ大尉(キャプテンK):週末キャンプに参加してからジョジョに任務を与えたり、話を聞いてくれたりしてくれる。
アドルフ・ヒトラージョジョの心の中にいる、架空の親友。何かあるごとに、ジョジョと対話をし、彼を励ます。ジョジョ曰く、ヨーキーを差し置いて、一番の親友らしい。

好きな理由1:夏休み映画と戦争映画のMix

この映画では、前半から二つの要素が並列している。その二つとは、夏休み映画と戦争映画。この場合の夏休み映画は僕の考えた造語だが、とある夏に大きな出来事を経験して、子どもたちが成長していくタイプの映画を指している。特に映画の前半では、二つの並列がとても上手く行われている。

映画のOPは、週末のキャンプに参加する主人公ジョジョが、不安になりながらも、自分を鼓舞するシーンから始まる。子どもが新しいことに挑戦するという始まり方は、成長物語にはよくあるスタートだ。しかしこの映画はそこに戦争映画の要素を加えてくる。彼の心に住むヒトラーだ。ジョジョが不安を口にすると、ジョジョの心が生んだ架空の親友ヒトラーが、彼の横に立ち、ジョジョを鼓舞してくれる。お前がドイツを支えるのだ!的な感じで。

こんな風に前半は、戦争でドイツがどんな状況(終盤なので負けそう)かすら知らないで、大好きなヒーロー、ドイツやナチスに貢献できる=超最高!!という感じで、ジョジョたちをはじめとした子どもたちが熱狂する様子が描かれている

ここからスタートし、物語が進むに連れて、ドイツが戦争に負けていくことがジョジョには様々な形で実感させられていく。家に匿われているユダヤ人の少女エルサとの出会い、親友ヨーキーとの会話、母ロージーとの生活など、実体験として、彼が信じていたナチスやドイツへの違和感を感じていくのだ。

この結果、ジョジョはたった一夏を超えただけにも関わらず、映画の中で大きな成長を遂げる。つまり、戦争というイベントをジョジョが越えるべき大きな壁、大人への階段のように設定しているのだ。これが、夏休み映画と戦争映画の見事なMixへと繋がっている。

好きな理由2:テンポの良いカメラワーク

カメラワークは、この子どもたちの明るさや、楽しさを演出するのに大きな貢献をしている。映画の前半は特に、シーンがかなり細かいショットで構成されているのが特徴的だ。例えば、ジョジョが手榴弾を投げ損ねて大怪我をし、病院に運ばれる時、倒れている彼の目線(POV)にカメラは切り替わる。

気付いたら森の中で倒れて空を見上げていて、次に気づいた時には車の中に投げ込まれていて、次に気づいたら病院に運ばれているという、怒涛の場面転換が行われる。しかもこれを数十秒のうちに見せているのだ

また母と一緒に家を出る際にも、テンポの良いカメラワークが強調されている。母が思い切り家のドアを開けたかと思えば、次の瞬間には、目的地のドアが閉められているのだ。さらにドアの開閉音を用いて、テンポの良いリズムが奏でられることで、一瞬のうちに移動が完了したかのように感じられるのだ。

このようなカメラワークにより、少年時代のワクワク感=夏休み映画の側面を演出することに見事に成功していると言えるだろう。

好きな理由3:全体化されないキャラクター

この映画に出てくるキャラクターは皆個性的だ。それはまるで、ナチス全体主義的な雰囲気に抗うかのように感じられる。僕が特に気に入っているのが、ジョジョの母ロージーと、クレンツェンドルフ大尉(キャプテンK)だ。

ジョジョの母ロージーは反ナチ運動に参加している。それもあって、周りと比べて派手な服を着たりもするし、ユダヤ人のエルサを自宅にこっそりと匿う。ジョジョとの対話にもしっかりと応じ、政治的な立場で息子とぶつかっても、決して理不尽な態度は取らない。自分をしっかりと持ちつつも、相手のことも尊重できる素晴らしい人物として描かれている。

一方クレンツェンドルフ大尉(キャプテンK)は、ドイツ軍の大尉だ。物語の序盤では、ジョジョを雑に扱っているようにも感じられるが、中盤で、彼は自身がゲイであることを隠していることが示唆される。また、ジョジョの家が家宅捜索された際には、ジョジョの家にいるエルサを手助けしているし、最後の戦闘シーンではドイツのために闘うものの、オリジナルのド派手な軍服で戦い、ジョジョを安全な場所へと逃す。体制側という位置につきながらも、自分の信じたことを貫くことで、体制へと反旗を翻していると言えるだろう。

ジョジョ・ラビット』には他にも様々なキャラクターが登場する。彼ら彼女らに一貫しているのは、それぞれの立場やそれぞれの方法で、ナチスや戦争状態という全体主義に立ち向かっていることだ。そしてその姿はジョジョにとってわずかな違和感とともに、彼が成長するきっかけをくれるのだ。

好きな理由4:モチーフ=靴&ヒトラー

この映画ではモチーフとして、靴とヒトラーが用いられている。(※モチーフとは映画の中に何度も繰り返し出てくるアイテムや場面などのこと。)このモチーフの使い方がとても巧みだ。

赤い靴はジョジョの母ロージーのモチーフとして機能している。それが強調されるように、作中では何度も靴がクロースアップ(カメラが対象物に近づく)される。またその多くのシーンでは、ジョジョの目線という特徴的なショットから捉えられたらものが多い。例えば段差の上にいるロージーの靴を、彼がじっと見つめるような感じだ。さらに物語において、ロージーに大きな事件が起きるときも、このモチーフとジョジョ目線のショットが使われている。この映画の一つの見所ともいえるシーンだろう。

靴で言うと、靴ひもを結ぶという行為もモチーフとなっている。物語の当初は、ジョジョは母に靴ひもを結んでもらう。ただ、映画の後半、ちょっぴり成長したジョジョは、とある人物に靴ひもを結んであげる。靴ひもという小さなモチーフですら、少年ジョジョの成長物語を語る要素に組み込まれているのだ。

だがここで忘れてはならないのが、ジョジョと最もつながりの強いモチーフ、そう、彼の心にいる親友ヒトラーだ。ヒトラー自身は、この映画のコメディ的な部分の多くを担っている。だが、ジョジョとの関わり方の変化にという部分に着目すると、彼の成長の度合いが見えてくるバロメーターのような存在にもなっている。物語の序盤において、二人は大親友だ。何かあればジョジョヒトラーに相談し、ヒトラーは彼にアドバイスをする。だが、物語が進むにつれて、ジョジョは自分の信じてきたもの=ナチスや戦争に疑問を持つようになる。そうすると、ヒトラーとも言い合いや小競り合いが多くなってきてしまう。その衝突が最高潮になるのが物語の終盤だ。彼らは決別する。それは、今までヒトラーが出入り口として使っていた窓に向けて、ジョジョが彼を蹴り出すからだ。ちなみにその時のセリフは「くたばれ、ヒトラー!」だった。このようにヒトラーというモチーフを繰り返し利用することで、ジョジョの精神的な変化をコメディも織り交ぜながら表現することに成功している。

ジョジョ・ラビット』におけるモチーフとは、ジョジョの成長の過程を観客に共有するものとして効果的に機能していると言えるだろう。

好きな理由5:対比が光る構成力

私がこの映画を好きな最後の理由は、その構成にある。この作品は、全体の構造として反復と差異が上手く利用されている。別の言い方をすれば、似た要素が別の形で現れることで、対比が強調されているということだ。ここまで述べてきた中で例を挙げれば、モチーフの靴ひもが挙げられる。同じ靴紐でも、結ばれる側から結ぶ側へ、そういった変化がジョジョの成長を確信させてくれるのだ。この例以外にも、前半と後半の物語自体の対比や、OPとEDの対比などもある。個人的に特に印象的だったのが、映画のラストシーンだ。ここまで展開した物語はどうすればきれいに終わるのだろうか。そう思っていた矢先にこの映画は、一つの要素を持ち出すことで素晴らしいエンディングを迎える。それは不自由と自由というテーマの対比にもつながるものだった。この終わり方に関しては、ぜひ自分の目で確かめてみてほしい。

終わりに

この5つの要素が、僕が『ジョジョ・ラビット』を最高に面白い作品と感じる理由だ。戦争映画なのに、ジョジョの成長物語と絡まることで、「Interesting」だけでなく、「Funny」としても面白く楽しめる映画となっている。見終わった後の満足感は、ここ数ヶ月で最も高かった。まだ見ていない方はぜひ見てみてほしい。監督であるタイカ・ワイティティの絶妙なバランス感に病みつきになること間違いなしだ。