生きるのが下手くそなエッセイ

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難解と言われている映画『TENET テネット』は、実はパズルみたいに気持ち良い作品※ネタバレなし

タイトル通り、映画『TENET テネット』(以下『TENET』)を見てきました。世間では、なかなか話題になっているように感じますが、僕的にも面白かったです。ただ世間で言われているほどの難解さはそこまで感じませんでした。もちろん、二回観た方が理解できる部分はありますが、「全くわけがわからない」というほどではないかなという感じです。

そこでこの記事では、『TENET』の難解さではなく、気持ち良さについて僕が感じたことを書いていこうと思います。その際なのですが、本作の監督であるクリストファー・ノーランの過去作『メメント』と比較しながら、その気持ち良さを書いてみたいと思います。

『TENET』のあらすじ

まず最初に大切なのが、この映画がクリストファー・ノーランの作品であるということです。彼の映画は、『インセプション』や『インターステラー』など、時間を自由に操る作風が特徴です。今回の『TENET』は、「時間の逆行」というテーマでモロにそれを扱った作品となります。

『TENET』の物語をざっくり説明すると、主人公が「時間の逆行」を用いながら、世界を救おうとする話です。「時間の逆行」とは、文字通り、時間が巻き戻ることです。主人公たちは、それを利用して、時間が巻き戻る中で移動や戦闘を行っていきます。予告動画をみた方が早いと思うので、どうぞ。

見てもらうとちょっとわかるかと思いますが、銃を撃つと弾が銃口に戻ったり、横転していた車が元どおりになったりしていると思います。この映画では、時間が逆行する世界と、いつも通りに時間が順行する世界をキャラクターたちが行き来しながら、物語が進んでいきます。

メメント』のあらすじ

メメント』(2000)もまた、クリストファー・ノーランの映画です。これも『TENET』と同じく、時間の巻き戻しをテーマとして扱っています。主人公は、ケガの影響で10分間しか記憶を保持できません。そんな状態で、自分にケガを負わし、妻を殺害した強盗に復讐を果たそうとする映画です。

この映画では、現在から過去へと物語が遡ります。主人公の記憶が10分しかもたないということを利用して、あるシーンBが流れたら、次のシーンはその前の10分間を描くAが流れるという構図です。こんな感じで、10分間ずつシーンを巻き戻しながら、この映画は進んでいきます

これに加えて、時間が順々に進んでいくパートもあったりします。このパートはモノクロで表現されていて、物語の全体像を掴むのに重要なパートとなっています。ちょっとわかりにくくなったので、ここで2作品の比較をしてみましょう。

『TENET』と『メメント』の比較

アルファベットを用いて2作品の時間の流れ方を整理してみましょう。A→Zまで、通常の時間の流れ方だと捉えてください。

『TENET』では、時間が巻き戻っている中を行動することになるので、それを「’」で表現します。

『TENET』:B→C→B’→A

この場合だと、B→Cと物語が進んだのちに、B’としてBの時間を逆行したシーンが入ります。このときB’はBの時間を文字通り巻き戻したシーンなので、Bのシーンをもう一度見ることになります。さらにその後、物語が進むと、Bよりも前のAというシーンまで戻ってから、また物語が進み始めたりします。ごちゃごちゃ書きましたが要するに、時間を行ったりきたりするってことですね。

一方『メメント』は、基本的に時間、正確にいうとシーンの流れが巻き戻っていきます。なので、

メメント』:C→B→A

という感じに、直線的に戻っていくわけです。ただ先ほど説明した、通常通りに時間が進むモノクロのシーンもあるので、正確にいうと

メメント』:C→B→Aと並行してG→H→I

という感じでしょうか。とはいえ基本的にこちらは、時間(シーン)が巻き戻るというリニアなものとなっているので、『TENET』のように、同じシーンを2度見ることはありません。改めて比較するとこんな感じになりますす。

『TENET』<時間を行ったりきたり>:B→C→B’→A
メメント』<時間が巻き戻る>:C→B→A

このように見ていくと、同じ時間を扱う映画と言っても、結構物語の構造が違うことがわかると思います。ではこの違いが、見ている人にとってどのような印象の違いにつながるかを、僕なりに伝えたいと思います。

メメント』は驚き、『TENET』は気持ち良さ

この二つの作品の大きな違いは、さっきも言ったように、同じシーンを2度みるかどうか、ということにあると思います。アルファベットで言えば、「’」がついたシーンがあるかどうか、ということですね。

メメント』では基本的に、同じシーンを2度見ることはありません。その結果、驚きという部分がこの映画の印象として強く残ります。例えば、Cというシーンを見る→そこに至るまでの過程や原因が次のシーンBでわかる!という感じです。この構図が映画の中でずっと繰り返され、最終的には物語全体にも通じてきます。この原因の探究という物語の流れが、観客に驚きを与えることになります。

それに対し『TENET』では気持ち良さが先に来ます。『TENET』には「時間の逆行」というアルファベットの「’」が存在します。つまり、同じシーンを2回見ることになります。例えば、シーンBを通常の時間の流れとして見る→今のシーンをB’として巻き戻しで見るということです。

これが気持ち良さにつながります。大事なのは、同じシーンを、通常の時間と逆行の時間の2通りの見方をしていることです。先ほどの例でいくと、シーンBには逆行している人やモノが既に映り込んでいます。なんならそいつと戦闘したりしています。なので、シーンBを見ているときは、なんか変な動きしてるな?と感じるわけです(さっきの予告でいうと、銃弾が銃口に戻るような部分です)。

そして続くシーンB’で、今度はその変な動きの視点に立って同じシーンを見ることになります。そうするとここで気持ち良さが生まれます。なぜならさっき変な動きだなと思っていた動きが、全てハマっていくからです!なぜそんな動きをしていたのか、なぜそんなところに車があるのか、などなどいろんな「なぜ?」がさっきのシーンを「逆行した時間」という別視点で見ること解決していくのです。その瞬間に、「なるほど!」とパズルがはまったような気持ち良さが生まれます。

�� �のように同じ時間の巻き戻しを扱う『メメント』と『TENET』を比べてみても、作品から受ける印象は大きく異なってくるなと、僕は感じました(あくまで僕の感想ですが)。

最後に

『TENET』の感想なんかを見ていると、難解とよく言われています。ただ実際見た感想としては、難解な部分もあるけれど、気持ちよく見られる映画だということです。さらに言えば、クリストファー・ノーランはCGを極力使わず、実写で作品を作ることにこだわっています。それはアクションだけでなく、爆発やビルの倒壊なんかもです。今作もそれは顕著で、正直バカなのかな?と思うほどのことを実写で行っていました。そんな大迫力の映像と音響を兼ね備えた本作は、本当に映画館で見るべき作品だと思います。難解だからという理由で敬遠してしまうのは、とてももったいないです!なので、頭を空っぽにして、気軽に気持ち良さを味わいに映画館に行ってみてください。「無知こそが武器」です!(映画を見れば意味がわかります)