言葉じゃなくても、文章なら
僕たちは日々、言葉を吐いている。口から音として、頭の中にあるものを出していく。その中には、頭の中で多くの時間を過ごしたものもあるだろうし、生まれた瞬間すらわからないほどの早さで出てきたものもある。人はいろんなことを思う、感じる。そしてそれを伝える、言語という手段を持っている。でもいつも、自分が伝えたいことが伝えられるとは限らない。
こんなつもりじゃなかったのに。そう思いながら、僕たちは今までどれだけの言葉を吐いてきただろう。口をついて、咄嗟に、思いもよらず、様々な言い訳を並べるけれど、出てきてしまった「言葉」を消してしまうことはできない。それはときに、大切な人を傷つけてしまうことだってある。人に与えられた言葉というものは、どうしてかくも難しいのだろう。
だけれども、人に与えられたのは音だけではなかった。僕たちは何かを見ることができた。口ではなく、手で、石で、筆で、ペンで、墨で、思いは「文字」となった。文字は連なることができた。連なりが新たな連なりを産んだ。それは「文章」と呼ばれるようになった。人は文章を通して、時間を書けて、手間を書けて、思考を深め、共有することができるようになった。
文章は残った。何時間も、何日も、何年も、何世代も。過去から今へ、そして未来へと、その想いを伝え続けた。口から出る言葉とは異なり、文章には、より選び抜かれた、美しい気持ちが宿っていたんじゃないかと思う。人の想いに寄り添い、その想いを続く人へと、時間や空間すら超えて伝える。それが文章なんじゃないかと感じた。
『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
それが今日僕が見た映画だ。
