生きるのが下手くそなエッセイ

人生に悩みまくりの僕カシコが、エッセイやコラムを気が向いたときに書いていきます

大掃除したら、泣きました。

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大掃除。年に一度の戦い。この一年ため込んできた物やらゴミやら、その他もろもろを年末というとても身勝手な理由で一気に処分する。でも僕は問いたい。本当に処分できてますか?

 

「様子見」という名の…

僕はできていない。正確にいうと「全部」は処分できていない。毎年、「様子見」というジャンルが現れるからだ。これはまだ使うかもしれないとか、今年は出番がなかっただけとか、いざという時のため!とか。様々な理由をつけて、使わないけど残る物、様子見たちが生まれる。そしてその様子見たちは、結局何年もその場所に居座り続けることになり、様子見どころか住人のように居座り続けることになったりする。

そんな住人たちを、僕は今年処分した。何を思ったか、急に身の回りにあるものを減らしてみたくなったから。僕はまだ社会人として働き始めて日が浅いけれど、それでも自分が幸せを感じるシチュエーションというものが、少しずつわかってきた。そのシチュエーションの中には、もので部屋が溢れているということは入っていないなと気づいたのが今年だった。だから僕は一念発起して、住人たちと戦うことを選んだ。

 

VS住人たち

僕が今回相手する住人たちは、とても手強い。なぜなら彼(女)らは10年近く、その場所から動いていないのだ。机の引き出しには、10年前に押し込んだまま見るも無残な形で入っているものがあるし、卒業してから一度も使わなかった高校の教科書が、ご立派にダンボール数箱分として残っている。今思い出すだけでも嫌になる。

もちろんこれまでにも、この住人たちに手を出そうとしたことはある。ただいざ片付けようと思うと、その存在感と、中に何が入っているかもうる覚えという恐怖感に気圧された結果、後回しにし続けてきて今に至る。でも大丈夫。今の僕にはラジオとユニクロのマスクがある。長時間の掃除も耳からエンタメを楽しみつつ、なおかつヒモが食い込みにくいユニクロのマスクがあれば、ラジオを聞きながら、淡々と作業をこなすだけでいいはずだ。そう自分に言い聞かせた僕は、いざ掃除に取りかかった。だけどそこには思わぬ出会いがあった。

 

住人たちの正体

ダンボールの中身の多くは、高校の頃に使用した教材だった。その中には、自分が使用していたノートやメモ、プリントなんかも入っていた。今に比べればずいぶん若かった自分が必死になって書いた文字が、そこには勢いよく残されていた。他にもちょっとしたものが入っていた。文化祭や体育祭で撮った写真、準備なんかで使ったもの。思ったよりも、教材以外のものも多く、小さなタイムカプセルのようになっていた。「懐かしいなぁ」なんて歳をとった風のことを思いながら、今となってはほとんど必要なくなってしまった彼(女)らに「ありがとう」と告げ、大半をゴミ袋の中に捨てていった。

少し感傷的になりながらも、大量のダンボール箱を目の前にした僕は、黙々と作業を続けていた。そうすると、ふと一つの封筒が目に入った。可愛らしい、小さな封筒だった。僕に向けての宛名が書いてある。記憶からすっかり抜けていたそれを開けてみると、中には手紙が入っていた。当時付き合っていた彼女の、お母さんからの手紙だった。

 

手紙と彼女のお母さん

その人はとても明るく優しい人だった。まだ高校に入って間もない頃にできた彼女だったこともあり、文字通り浮き足立っていた僕に、壁を作ることなく、朗らかに笑いかけてくれた。会うとすぐによくしてくれて、たくさんお話をした。話も面白い方で、とてもエネルギッシュだった。僕と彼女のバスツアーを予約してくれたりしたこともあって、本当にお世話になった人だった。

でもその彼女とは僕が大学生になって少し経つと別れてしまった。詳しい理由は話さないけれど、その理由は100%僕にあるのは間違いない。突然別れを切り出された僕は、もちろん彼女とその後顔を合わせることもなく、彼女のお母さんとも会うことはなかった。

そんな人からの手紙が出てきた。クリスマスプレゼントとして、スタバのカードを包んでくれていたときの封筒だった。そこには、短くも暖かい文章が書いてあった。当時はただただ嬉しいだけだったが、10年近くの時を経てその文章を見ると、その人がどれだけ娘を愛しているか、そして僕をどれだけ気にかけてくれていたかということが深く、深く感じられた。

その瞬間、気づいたら涙が出てきていた。まとまった感情なんかじゃない。当時の彼女とのいろんな思い出、それと一緒に彼女のお母さんと話した記憶、そんな人たちと僕が別れる原因を生んでしまったこと、その人が大切にした人を、僕が大切にできなかったこと。いろんな想いが一瞬で僕の中に溢れてしまった。僕はそのまま動くことができず、数秒間、ダンボールとゴミ袋が散らかる部屋で泣いていた。

 

僕が「今」できること

落ち着いた僕は、その封筒と手紙に深く感謝した。「本当にありがとうございました。」僕は当時の自分が言えなかったその一言を、手紙に向けて言った。そしてそのまま流れるように、その手紙を封筒ごと破り捨てた。多分今までの僕なら捨てずに取っておいたと思う。大切な思い出として、一生消えない思い出として。でも、それはもうやめた。僕に今できることがあるとするならば、それは思い出に浸り続けることなんかじゃなくて、きっと僕自身が幸せに生きていくことだと思うから。そしていつかもし、また会える日が来たときに、笑って互いの身の上話をすることができたらいいなと思うから。

こんなのは間違いなく、僕のエゴだし自己満足だ。でもそうでもしないと、僕は僕の人生を歩んでいくことはできない。その歩みに、この手紙は必要ない。そう思ったから僕は、その住人を捨てた。

 

大掃除

大掃除は大変だ。やってみて初めてわかる。自分がこれまで見て見ぬ振りをしてきたものたちと向き合わなければいけないから。でもやってみることで、前を向くこともできるのかもしれない。単純だけど大変なこと、それはとても避けたくなることだ。でもそういうものが実は、人生に大切なことだったりするのかもしれない、と片付いた部屋の中で思った。