生きるのが下手くそなエッセイ

人生に悩みまくりの僕カシコが、エッセイやコラムを気が向いたときに書いていきます

今日、生まれて初めてナンパされた

あ、これナンパか。気づいた瞬間の率直な感想はこうだった。ナンパというと、急に声をかけられたとか、食事に誘われたとかをイメージするかもしれない。というか、僕もそうイメージしていた。でも、僕に行われたそれは、電話番号を渡すというものだった。

生まれてから20数年間、ナンパなどされたことは一度もなかった。逆にナンパするようなこともなかった。その理由は単純で、そんな発想が僕自身になかったから。恋愛をするなら、友達からの延長でもいいし、せめて合コンなど、事前の出会いが前提となっているものがいいなと思っていた。ナンパはその場の出会いをさらに広げようとするものだから、その速度感や、感覚に正直共感できなかった。

そんなナンパを今日ついにされてしまった。されてみて初めてわかったのだけれど、ナンパは意外と静かに行われるものらしい。僕の場合だけかもしれないけど。直前まで、そんな前触れは全くなかったのだ。綺麗な凪のように、いつも通りの日々が過ごされていた。そんなとき、仕事の都合で職場に外部の人が複数人で来た。上司っぽい男性と、部下のような男女数人という感じだった。僕は直接の関わりはなかったけれど、配置の関係でちょっとした対応をしていた。ここで波が起こり始める。

「今日はよろしくお願いします。」上司らしき男性が、急に僕だけに聞こえる声で話しかけてきたのだ。いやいや、よろしくも何も、僕は一時的に、場つなぎ的に対応しているだけで、あなたとよろしくするほど関わることはないぞ?と思いながら、「よろしくお願いします」とだけ返した。次の瞬間、この違和感の波が僕に向かっているものだと確信に変わった。

「彼女いますか?」

イラッ。心の中の十中八九を、その感情が埋め尽くした。初対面で、出会って数分の人間に聞いていいことじゃねえだろ。時代は令和だぞ、考えろよ?と数多の考えが頭を巡り、その中には、先日のバラエティ番組で、似たような�� �問を聞かれて、気持ちの良い返答をしたフワちゃんの姿もあった。彼女のように「あんたこの関係性で教えてあげるわけないじゃん」という風に答えてやろうかとも思ったのだけど、正直に言おう。

僕、動揺しました。

この状況で僕の恋人の有無を聞いてくるのって、間違いなくこの後狙ってくるでしょ?と。いくらナンパ経験のない僕だってその程度はわかるもので、意味もなく恋人の有無を聞くなんてのはよっぽどないし、そもそもそんなことを聞くやつは、なかなかに図太い神経をしていると思ったりもする。つまり僕は今、ほぼほぼ確実にターゲットにされているわけで、その事実は僕の心を一瞬ぐらつかせるのには十分すぎるものだった。

「え、あ、いないですけど…」と答えなくてもいいのに答えると、途端にその上司は軽く指を向こう側に向けた。「あの部下があなたのことをいいなって言ってたんで、連絡先交換アリですか?」と。うわ、本当に聞いてきたぞと少し怯えた。なんだこの状況、なんでこんなことになってんの?そもそも今勤務中だぞ?こいつヤバない?と思ったものの、僕の口からは「えぇ、まぁ…」という言葉が出ていた。

白状すると、僕のこの時、二つのことを考えていた。一つは、勤務中にこういうやりとりをしていいものなのか、また断るにしてもどう断ればいいのかということ。(言わずもがなだが、「勤務中なんで」で全然断れる。)もう一つは、友達増えそうだな、だった。正直な話、この世間の状況において、新しい人との出会いというのはとても貴重になっている。なのでこういう形であれ、この出会いを拒む個人的な理由は、今の僕にはないものだった。別に恋人なんかにならなくても、友達になればそれはそれで面白いかなと思った。そして返事からわかる通り、この考えは後者が優先されることになった。

その結果、僕の手元には1枚の紙が渡された。なんと電話番号の書いてある紙だった。僕を気にかけた人の名前� ��電話番号がそこには書かれていた。でも大事なのは、この紙ではない。これを渡してきたのが、電話番号の主ではなく、その上司ということだ。そう、僕は当のナンパの本人と一度たりとも会話をすることなく、なんなら見た目もほとんど認知することなく、ナンパされたのだ。初めてのナンパにしてはとてもトリッキーな展開となったことは、昼休みに同僚に相談してから自覚した。

時がたって現在、僕はいまだに連絡をしていない。というかこれがナンパされてわかった一番の悩みなのだけれど、相手への連絡に関して、めっちゃ悩むということだ。そもそも連絡をするのかということから始まり、連絡方法はどうするのか、電話なのか、SMSなのか、LINEなのか、というか連絡した後はどうするのか、などなど。正直、こっちは一方的に連絡先を渡されただけなのに、全ての選択肢がこちらに押し付けられている。なぜこっちがこんなに考えなければいけないんだ、チクショウ!と今の僕は頭をかきむしっている。

個人的には、好感を持ってもらえたのは嬉しいし、さらに連絡先まで教えてもらえたことも嬉しい。だけど同時に、今後の展開が見えなさすぎて、どう動けばいいのか全くわからない。今回の場合、僕は相手と一言も喋っていないのもあって、互いのパーソナリティが全く見えていない。だからそもそも話をして気が合うのか、なんなら互いに嫌いなタイプという可能性すらある。そんな中、唯一渡された電話番号を手に、行動を起こすことにさえ大きな壁を感じてしまっている僕は、おかしいのだろうか。(ていうかこれ、上司が無理やり連絡先交換させようとしたんじゃね?)

というわけで、一晩寝かせるという意味も込めて、まずは執筆することで、現状を整理してみた。書きながら改めて感じたのだけれど、明らかに僕はこの状況を楽しんでいる。しかもまるで他人事のように。あと、やっぱりナンパは迷惑になるので、相手のことを考えるなら辞めた方が良いと思うの は、ナンパされた側の意見として提出しておきたい。今回の件については、多分明日以降に相手に連絡することになると思うが、どうなるかは僕も知らないので、今後のお楽しみに。